中国法務コラム

【中国法務コラム】売買契約における所有権留保条項

2018-10-19

【ご質問】 中国で売買契約に所有権留保特約を付けた場合、日本法の下での所有権留保と同様の効力が認められますか。

【回答】
所有権留保は、売買契約において目的物が買主に引渡された後も一定の条件が充たされるまで(たとえば、売買代金が完済されるまで)、売主がその所有権を留保する制度です。売買代金が分割払いされる場合等に、売主の債権の担保として利用されます。

  • 所有権留保に関する規定

 中国の「契約法」第134条は次のように規定して、売買の目的物について所有権を留保することを認めています。

「当事者は、売買契約において、買主が代金の支払い又はその他の義務を履行しない場合、目的物の所有権が買主に属する旨を約定することができる。」

これによると、中国では、所有権留保特約が無制限に認められるように見えますが、そうではありません。所有権留保特約については、「最高人民法院の売買契約紛争案件の審理における法律適用問題に関する解釈」(以下「司法解釈」という)により一定の制限が加えられています。

  • 不動産売買契約への不適用

 まず注意しなければならないのは、不動産の売買契約については所有権留保特約をしても効力が認められないことです。「司法解釈」第34条は、次のように規定しています。

「売買の当事者が契約法第134条の目的物の所有権の留保に関する規定を不動産に適用することを主張した場合、人民法院はこれを支持しない。」

したがって、不動産の売買代金が分割払いされる場合には、売主は所有権留保以外の方法で代金の支払いを担保することを検討しなければなりません。

  • 売主の取戻権とその制限

 所有権留保特約がある場合において、目的物の所有権が移転する前に買主が以下のいずれかの行為により売主に損害を及ぼしたときは、売主は目的物を買主から取り戻すことができます(「司法解釈」第35条第1項)。

(1)約定に従って代金を支払わない場合
(2)約定に従って特定の条件を完了させない場合
(3)目的物の売却、質入れ又はその他の不当な処分をした場合

しかし、次の場合には、売主は取戻権を行使することはできません(「司法解釈」第36条)。

(a)買主が目的物の代金総額の75%以上を支払っている場合
(b)買主が目的物を売却、質入れ又はその他の処分をし、第三者が目的物の所有権又はその他の物権を善意取得した場合

上記(a)の制限は日本法にはない制限なので、特に注意する必要があります。

  • 買主の受戻権による制限

 売主が目的物を取り戻した場合であっても、買主は、取り戻しの原因となった事由を一定の期間内に解消すれば目的物を受け戻すことができます(「司法解釈」第37条第1項)。たとえば、買主が代金を期限に弁済しなかったために売主が目的物を取り戻したような場合でも、買主は、一定の期間内に約束の代金を支払えば、目的物を引き渡すように要求することができます。

受戻権を行使することができる「一定の期間」は、買主と売主が協議により合意するか又は売主が指定することができます。この受戻権行使期間内に買主が目的物を取り戻さない場合には、売主は目的物を別途再売却することができます(「司法解釈」第37条第2項)。換言すると、売主は、受戻権行使期間が経過するまで目的物を第三者に再売却することができません。この点も日本法とは大きく異なりますので、注意する必要があります。

  •  目的物の再売却と清算義務

 売主が取り戻した目的物を第三者に売却した場合、売主には清算義務があります。すなわち、売主は、再売却代金から、①目的物の取戻し及び保管費用、②再売却の費用、③利息、④元の買主の未払代金を順次控除し、余剰がある場合は、それを元の買主に返還しなければなりません(「司法解釈」第37条第3項前段)。

 再売却代金が上記費用等の合計額に不足する場合、売主は元の買主に賠償を請求することができます(「司法解釈」第37条第3項前段)。但し、元の買主が売主による第三者への売却価格が市場価格より明らかに低いことを証明した場合には、元の買主はその限度で賠償義務を免除されることになります。

なお、目的物を再売却する前であっても、取り戻した目的物の価値が著しく減少している場合には、売主は買主に損失の賠償を要求することができます(「司法解釈」第35条第2項)。

(「H&H中国最新法令情報」(No. 50) 2017/4/28掲載)

【中国法務コラム】中国企業との取引契約における紛争解決条項

2018-10-17

【ご質問】 当社は中国企業との間で売買契約を締結する予定です。紛争解決条項について、中国企業は中国の裁判所による裁判を主張しています。当社としては、慣れない中国での裁判は避けたいため、日本での裁判を主張したいと考えていますが、問題はないでしょうか。

【回答】 

  • 民事訴訟の裁判管轄

民事訴訟では、被告の住所地を管轄する裁判所に訴訟を提起するのが原則とされています。これは、自己の権利を実現するために訴えを提起するのであれば、相手方の住所地に赴いて訴訟を提起するのが公平であるとの考えに基づいています。

この原則の例外の一つとして、契約の当事者は、書面による合意により、どこの裁判所に訴えを提起することができるかを定めることができると考えられています。この考えによると、当事者は日本の裁判所、中国の人民法院のいずれかを管轄裁判所として合意することになります。

  • 日本の裁判所の判決は中国では執行できない

このように当事者が管轄裁判所を合意しようとする場合、日本企業にとっては日本の裁判所を合意管轄裁判所とすることが有利であるように思われます。しかし、日本の裁判所が審理し判決をしても、当該判決が外国で強制執行できるかという問題が残っています。国際契約において裁判管轄の合意をするにあたっては、この点を検討する必要があります。

たとえば、日本企業が商品の売主であり、代金の不払いがあるとして買主である中国企業を訴えた場合を考えてみましょう。当事者が売買契約で東京地裁を管轄裁判所と合意し、東京地裁で勝訴判決を得た場合、日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、この判決を中国で強制執行することはできません。なぜなら、1995年に中国の最高人民法院が日本の裁判所の判決を承認すべきではないとの判断を示しているからです。したがって、中国企業が東京地裁判決に従って代金を支払わず、日本国内に財産も有していないような場合、日本企業は代金を回収できないことになります。

このように中国企業との取引の場合、日本の裁判所を合意管轄裁判所としてしまうと、勝訴判決を得でも、強制執行ができないという事態に陥りますので、日本の裁判所を合意管轄裁判所とすることは避けなければなりません。

  • 中国の人民法院の判決も日本では執行できない

それでは、同様の事例で、管轄裁判所をたとえば上海の人民法院とした場合はどうでしょうか。この場合、日本の企業は、中国の人民法院に訴えを提起する必要があります。日本企業が勝訴判決を得ることができれば、この判決に基づいて、中国国内にある中国企業の財産に強制執行をすることができます。

しかし、この場合、中国企業が商品に瑕疵があったとして日本企業を訴えて勝訴しても、日中間には日本の「民事訴訟法」第118条第4号が定める「相互の保証」(両国間で相手国の判決を承認するとの保証があること)がないため、上海の人民法院の判決を日本で強制執行することができないという問題が生じます。

  • 紛争解決条項の定め方

このような結果となるのは公平ではないため、中国企業との取引契約では、一方の国の裁判所を合意管轄裁判所に指定するのではなく、①相互に相手方所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所としたり、②裁判によらず、仲裁により紛争を解決する旨の合意がなされることが多いようです。

【中国法務コラム】中外合弁企業出資持分の第三者への譲渡

2018-10-15

【ご質問】当社は、中国現地法人(中外合弁企業)の出資持分を第三者に譲渡する予定です。譲渡先はすでに決まっているのですが、他の合弁当事者の同意を得る必要はありますか。他の合弁当事者との間でどのように手続を進めればよいでしょうか。

【回答】
中国の「会社法」によると、有限責任会社の出資持分を株主(出資者)以外の第三者に譲渡する場合は、他の株主の過半数の同意を得なければなりません(「会社法」第71条第2項)。他の株主の同意を得て出資持分を第三者に譲渡する場合も、他の株主は譲渡される出資持分を優先的に購入する権利を有します(「会社法」第71条第2項、第3項)。

ご質問の中国現地法人は中外合弁企業であり、「会社法」上の「有限責任会社」に該当しますから、上記の規定は、中外合弁企業の出資持分の譲渡にも適用されます(「会社法」第217条)。したがって、ご質問の場合、他の合弁当事者が出資持分の購入を希望する場合、貴社はこれを拒否することはできません。

【解説】

  • 他の株主の同意権

「会社法」の規定によると、有限責任会社の出資持分を株主以外の第三者に譲渡する場合は、上述のとおり、他の株主の過半数の同意が必要となります。しかし、中外合弁企業については、「中外合弁経営企業法」が制定されており、同法が特別法として「会社法」に優先して適用されます。

「中外合弁経営企業法」には、「中外合弁当事者の登録資本(出資持分)を譲渡する場合は、各合弁当事者の同意を得なければならない」という規定がありますから、ご質問の場合は、この規定に従って、他の株主の全員の同意を得なければなりません(「中外合弁経営企業法」第4条第4項)。

他の株主の同意は、持分譲渡を実施する前に、株主以外の第三者に出資持分を譲渡することを書面の通知により求めることが要求されています(「会社法」第71条第2項)。ただ、最高人民法院が本年8月25日に公布し、9月1日から施行した「『会社法』の適用における若干問題に関する規定(四)」(以下「会社法司法解釈(四)」という)は「書面またはその他受領確認ができる合理的な方法により、同意を求めなければならない」と規定していますので、電子メール等の方法により持分譲渡の通知をすることも可能と考えられます(「会社法司法解釈(四)」第17条第1項前段)。

持分譲渡に同意しない他の株主からは、30日以内に不同意の通知がなされます。出資持分を譲渡しようとする株主が持分譲渡の通知をしたにもかかわらず、これを受領した他の株主が通知受領日から30日以内に回答しない場合、当該他の株主は、第三者への出資持分の譲渡に同意したものとみなされることになっているからです(「会社法」第71条第2項)。

持分譲渡に同意しない株主が半数以上に達したために、出資持分を譲渡しようとする株主が第三者に譲渡できない場合、同意しない株主は当該出資持分を購入しなければなりません。持分譲渡に同意しない株主がこれを購入しない場合、出資持分の譲渡に同意したものとみなされることになっています(「会社法」第71条第2項、「会社法司法解釈(四)」第17条第1項後段)。

  • 持分の優先購入権

他の株主の同意を得て出資持分が株主以外の第三者に譲渡されることとなった場合も、他の株主は、持分譲渡に同意したと否とにかかわらず、当該出資持分を当該第三者に対する条件と「同等の条件」で優先的に購入する権利を有します(「会社法」第71条第3項)。

したがって、出資持分を譲渡しようとする株主は、第三者に対する持分譲渡の条件を書面またはその他受領確認ができる合理的な方法により他の株主に通知しなければなりません。そして、他の株主が「同等の条件」で購入することを表明した場合には、他の株主に優先的に譲渡しなければなりません(「会社法司法解釈(四)」第17条第2項、第3項)。

複数の他の株主が購入を希望した場合は、協議により購入比率が決定されることになっています。協議が整わない場合は、当該複数の株主の出資比率により購入比率が決定されます(「会社法」第71条第3項)。

他の株主から提示された購入条件が第三者に対する条件と「同等の条件」であるか否かは、他の株主が購入を希望する出資持分の数量、価格、支払方法及び期限等の要素を考慮した上で決定されることになります(「会社法司法解釈(四)」第18条)。

優先購入権の行使期間については明確な規定がありませんので、定款に定めがあれば、定款が規定する行使期間によることになります。定款に定めがない場合又は定款の規定が不明確な場合は、出資持分を譲渡しようとする株主が、他の株主に対する通知で行使期間を定めることができます。ただし、通知による行使期間は30日より短くすることはできません。起算日は、通知が他の株主に到達した日と解されています(「会社法司法解釈(四)」第19条)。

  • 定款の規定

中外合弁企業の出資持分の譲渡に関する他の株主の同意権、優先購入権に関する「会社法」等の法令の規定の要点は以上のとおりですが、会社の定款に別段の規定がある場合は、定款の規定が優先的に適用されることになっています。したがって、定款に上記と異なる規定がある場合は、法令により定款の規定により変更できないことが明記されている場合を除き、定款の規定が優先することになりますので、留意する必要があります。

(H&H最新法令情報No.54(2017/11/17)掲載)

【中国法務コラム】中国における会社董事の責任

2018-08-03

【ご質問】中国の会社の董事に選任された場合は、どのような義務と責任を負うことになるのでしょうか。

【回答】
中国において、外国企業が設立する外商投資企業は「有限責任公司」として設立されるのが通常です。「会社法」によると、有限責任公司の董事会は、株主会(または株主[1])に対して責任を負って会社の経営管理に関する重要事項を決定する議決機関であり、3名以上13名以下の董事により構成されます(「会社法」第44条第1項)。したがって、董事会は日本の会社の取締役会、董事は取締役に相当すると考えてよいでしょう。

1.会社及び株主に対する責任

董事は、法令または会社定款の規定に違反して会社または株主に損害を与えた場合には、
賠償責任を負わなければなりません(「会社法」第149条、第152条)。

中国の「会社法」その他の関係規定は、董事の義務及び責任について以下のような規定を置いています。

 (1) 会社に対する忠実・勤勉義務

「会社法」によると、董事は法令及び会社定款を遵守し、会社に対して忠実義務を及び勤勉義務を負います。

また、当然のことですが、その権限を利用して賄賂その他不法な収入を得たり、会社の財産を横領したりすることは禁止されています(「会社法」第147条)。

そのほか、「会社法」は、以下の行為を禁止しています(「会社法」第148条)。

・ 会社の資金を流用すること
・ 会社の資金を自己または他人の名義で開設した口座に預金すること
・ 会社定款の規定に違反し、株主会または董事会の承認を得ることなく、会社の資金
 を貸し付けまたは担保に供すること
・ 会社定款の規定に違反しまたは株主会の承認を得ることなく、会社と契約を締結し
 または取引をすること
・ 株主会の承認を得ることなく、職務上の便宜を利用して自己または他人のために
 会社の商機を奪い、在任する会社と同種の業務を自営しまたは他人のために経営する
 こと
・ 他人と会社との取引のコミッションを受け取り、自己のものとすること
・ 会社の機密を無断で開示すること
・ 会社に対する忠実義務に違反するその他の行為

なお、董事が忠実義務·または勤勉義務に違反し、企業を破産させた場合、当該董事は、民事責任を負わなければならず、破産手続が終了した日から3年間は企業の董事、監事、高級管理職に就くことができません(「企業破産法」第125条)。

 (2) 株主会への列席義務等

  株主から要求があった場合、董事は、株主会に列席し、株主の質問を受けなければ
  なりません。

  また、董事は、監事会または監事に関連状況及び資料を事実に即して提供しなければ
  ならず、監事会または監事の職権行使を妨害してはなりません(「会社法」第150条)。

 (3) 書類資料の作成・保管に対する義務

 董事が法に従って職責を履行せず、会社が「会社法」第33条、第97条に規定する会社の
 書類資料(定款、株主名簿、株主会議事録、董事会議事録等)を作成せず、
 または保管しなかった結果をもたらし、株主に損害が生じた場合、当該董事は
 賠償責任を負わなければなりません。
 (「『会社法』適用の若干問題に関する規定(四)」第12条)

2.会社が破産した場合の責任

会社が破産した場合、董事が以下の行為に直接関与していたときは、これにより利益を
害された会社債権者に対して賠償責任を負うことになります(「企業破産法」第128条)。

  1. 破産申立てが受理される前1年以内に会社が行った以下の行為(「企業破産法」第31条)
    1. 無償で財産を譲渡する行為
    2. 明らかに不当な価格で行った取引
    3. 物的担保のなかった債務について物的担保を提供する行為
    4. 期限未到来の債務を繰り上げてした弁済
    5. 債権の放棄

  2. 破産申立てが受理される前6か月以内に、破産原因が生じているにもかかわらず、会社が個別の債権者に対して行った弁済(「企業破産法」第32条)

  3. 債務を免れるために行った財産の隠匿もしくは移転行為、または債務を虚構し、もしくは不実の債務を承認する行為(「企業破産法」第33条)

 

3.株主の出資に関する責任

増資の際、株主が出資義務を全面的に履行せず、董事が上記忠実義務または勤勉義務を怠って
出資払込額を不足させた場合、当該董事は、会社の債権者に対し相応の責任を負わなければなりません。(「『会社法』適用の若干問題に関する規定(三)」第13条第4項、第14条)

株主が出資を引き揚げた場合、出資の引き揚げに協力した董事は、出資の返還及び会社の債務につき連帯責任を負うことになります(「『会社法』適用の若干問題に関する規定(三)」第14条)。

4.持分譲渡の譲受株主に対する責任

譲渡株主が持分を二重譲渡をしたこと等により譲受株主に損失が発生し、董事が登記変更手続を速やかに行わなかったことに過失がある場合、当該董事は譲受株主に対し相応の責任を負うことになります(「『会社法』適用の若干問題に関する規定(三)」第27条第2項)。

5.董事の免責

董事は董事会の構成員であり、董事会の決議を通して会社の経営管理に関与することになります。

このため、株式会社については、董事会の決議が法令、会社定款または株主総会決議に違反し、
会社に重大な損失与えた場合、決議に参加した董事は会社に対して賠償責任を負わなければなりません。

しかし、決議に際して異議を表明し、かつ議事録に記載されている場合には、董事はその責任を免除されることになっています(「会社法」第112条第3項)。

有限責任会社については、この種の明文規定はありません。しかし、董事会の不当議決について異議を述べ、議事録に異議を述べたことが記載されていれば、株式会社の場合と同様に責任を免除されるものと考えます。

 

[1]  外商投資企業のうち、中外合弁企業及び中外合作企業には株主会は設置されません(「中外合弁企業法」第6条、同「実施条例」第30条、「合作企業法」第12条、同「実施細則」第24条)。外資独資企業の場合も、出資者(株主)が1社(1人)のときは株主会は設置されません(「会社法」第61条)。これらの場合、董事会はその権限の行使につき株主(出資者)に対して責任を負うことになります。

(H&H最新法令情報No.57(2018/6/8)掲載)

 

【中国法務コラム】中国における契約の解除事由

2017-06-28

【ご質問】中国の「契約法」においては、どのような場合に契約を解除することができることになっていますか。

【回答】
契約の解除に関して、中国の「契約法」は、まず合意解除について規定しています。「契約法」によると、契約当事者は、合意をすれば、理由の如何を問わず、いつでも契約を解除することができます(「契約法」第93条第1項)。

解除の合意ができない場合は、いずれかの契約当事者が一方的に契約を解除することになりますが、一方的な契約の解除は一定の解除事由がなければすることができません。解除事由は、当事者の約定したものか、法定のものかによって、約定解除事由と法定解除事由が分類されます。

1.約定解除事由

 「約定解除事由」とは、契約当事者が契約書その他において予め約定した契約解除の根拠となる事由をいいます。約定解除事由が発生した場合、契約当事者はこれを理由として契約を一方的に解除することができます(「契約法」第93条第2項)。

「契約法」には、約定解除事由の内容を直接制限する規定はありません。したがって、公平の原則など一般原則に違反する事情がなければ、契約当事者は、契約の内容に応じて相応の約定解除事由を合意することできます。

 

2.法定解除事由

 「法定解除事由」とは、法律の定める契約解除の根拠となる事由をいいます。契約当事者は、約定解除事由を約定していなくても、法定解除事由があれば、契約を一方的に解除することができます(「契約法」第94条等)。

「契約法」は、「総則」で各種契約に共通の法定解除事由を定めるほか、「各則」でいくつかの典型的な契約に特殊な法定解除事由を規定しています。

 

3.各種契約に共通の法定解除事由

 「契約法」の「総則」が規定する各種契約に共通の法定解除事由は以下のとおりです(「契約法」第94条)。

  1. 不可抗力により契約の目的を実現できなくなった場合
  2. 履行期限が到来する前に、一方当事者が主要な債務の不履行を明確に表示し又は自己の行為をもって表明した場合
  3. 一方当事者が主要な債務の履行を遅延し、催告を経た後も合理的な期間内に履行しなかった場合
  4. 一方当事者に債務の履行遅延又はその他の違約行為があるために、契約の目的を実現できなくなった場
  5. 法律が規定するその他の情況

上記a.の場合は、いずれの当事者も契約を解除することができます。 b.~e.の場合は、他方の当事者が契約を解除することができます。

上記のほか、「契約法」及びその司法解釈は、各種契約に共通の法定解除事由として以下の事由を規定しています。

(1) 不安の抗弁権に基づく契約の解除

「不安の抗弁権」とは、相手方当事者の財産状態の悪化などによる反対給付の履行が不確かであることを理由として、先履行義務を負う契約の当事者が自らの履行を留保する権利をいいます。中国の「契約法」は、この不安の抗弁権を明文で定めており、不安の抗弁権に基づき先履行義務の履行を中止したにもかかわらず、相手当事者が合理的な期間内に履行能力を回復できない場合又は適切な担保を提供しない場合には、履行を中止した当事者は契約を解除することができます(「契約法」第68条、第69条)。

(2) 事情変更の原則に基づく契約の解除

「契約法」の司法解釈によると、契約の成立後に客観的事情に重大な変化が生じ、契約の履行を継続することが一方当事者にとって明らかに不公平となった場合又は契約目的の実現が不可能となった場合、当事者は、人民法院に契約の解除を求めることができます。但し、客観的事情の変化が、当事者が契約の締結時に予見できず、不可抗力に起因するものではなく、商業リスクにも属さないことが条件となります。この場合には、人民法院が契約の解除をするか否かを確定します(「『契約法』の適用の若干問題に関する解釈(二)」第26条)。

4.典型契約に特殊な解除事由

 (1) 売買契約

売買契約に関しては、売買代金が分割払いされる場合、未払代金額が代金総額の5分の1に達したときは、売主は契約を解除することができます(「契約法」第167条)。

(2) 金銭消費貸借契約

金銭消費貸借契約の借主が契約で定める借入金の用途に従い借入金を使用しない場合、貸主は契約を解除することができます(「契約法」第203条)

(3) 賃貸借契約

賃貸借契約の賃借人が賃貸人の同意を得ることなく賃借物を転貸した場合、賃貸人は契約を解除することができます(「契約法」第224条第2項)。

(4) 請負契約

請負契約の場合、請負人が請け負った仕事の主要な部分を原則として自ら完成しなければなりません。注文者の同意を得ることなく、仕事の主要部分を第三者に委託した場合には、注文者は契約を解除することができます(「契約法」第253条)。

5.契約の解除及びその効果

契約を解除する場合は、相手方に通知をしなければなりません。契約は解除の通知が相手方に到達したときに効力を生じます(「契約法」第96条第1項)。

契約が解除された場合には、未履行の債務は消滅します。すでに履行された債務については、履行の情況及び契約の性質に基づき、原状回復その他の救済を請求することができますし、損害賠償を請求することもできます(「契約法」第97条)。

(H&H中国法令情報No.51(2017/6/15)掲載)

 

【中国法務コラム】中国の時効制度

2015-08-28

 

【ご質問】 中国では債権の消滅時効期間は2年と聞いています。債権が時効にかからないようにするには、どうすればいいのでしょうか。

 

1.中国の時効制度

 中国では、「民法通則」が民事債権の「訴訟時効」(日本の消滅時効)について原則的な規定を置いています。これによると、債権の訴訟時効期間は原則として2年です(「民法通則」第135条)が、以下の債権の訴訟時効期間は1年とされています(同第136条)。

  1. 身体傷害を理由とする賠償請求権
  2. 品質不合格の商品を販売し、それを告知していない販売者に対する請求権
  3. 賃借料の請求権
  4. 寄託物の紛失・毀損を理由とする賠償請求権

 なお、他の法律に別段の規定がある場合はそれを従います。例えば、国際貨物売買契約や技術輸出入契約に基づく債権の訴訟時効期間は、「契約法」第129条の規定により4年に延長されています。

 

 2.時効の中断

  時効については、日本と同様、中国でも「時効の中断」が認められています。「時効の中断」というのは、時効の進行を中断し、改めて最初から時効を進行させる制度をいいますが、中国の「民法通則」は、以下の3つを時効の中断事由として規定しています(第140条)。

  1. 訴訟の提起
  2. 債務者に対する要求
  3. 債務者による履行の承諾

 したがって、例えば売掛債権が時効にかかりそうになっている場合には、上記のいずれかにより時効の進行を中断する必要がありますが、(a.)の訴訟の提起は時間も費用もかかりますし、(c.)の履行の承諾は相手方が同意しないと得られませんから、(b.)の債務者に対する要求(催告)をするのが通常です。

 

3. 「催告」の方法

 日本では、このような場合、内容証明郵便で「催告書」を送るのが通常ですが、中国には内容証明郵便制度はありませんから、催告したことを後日証明できるようにするために、「催告書」の原本を郵送するとともに、そのコピーを電子メールで送信する等の方法が採用されることになります。

 債務者が行方不明の場合は、公示により催告することができますが、公示は、国家レベル又は債務者所在地の省レベルの影響力がある新聞等でしなければなりません(「民事案件の審理における訴訟時効制度の適用に関する若干問題の規定」第10条第1項第3号)。

 なお、催告は、債務の保証人にもすることができます。保証人に対して催告をした場合は主たる債権者に対する関係でも時効が中断されます(「『民法通則』の執行貫徹における若干問題に関する意見(試行)」第173条第2項)。

 

 4.「催告」の効力

 日本でも「催告」は時効の中断事由とされていますが、債権者は、催告後6ヶ月以内に訴訟等を提起しなければならず、「催告」を繰り返しても、時効の完成を阻止することはできません。

 これに対し、中国の「民法通則」の下では、「催告」はそれだけで時効を中断することができます。したがって、「催告」をした後、売掛債権が再度時効にかかりそうになったら、債権者は、改めて催告をすることによって時効を中断することができます(「『民法通則』の執行貫徹における若干問題に関する意見(試行)」第173条第1項)。

(H&H中国法令情報No.42(2015/6/23)掲載)

 

【中国法務コラム】中国企業との契約書作成における注意点

2015-08-05

 弁護士 神保宏充

 中国企業と取引契約を締結する場合、検討すべき点は多岐にわたりますが、中国企業との契約の締結の場合に考慮すべき一般的な注意点もいくつか存在します。日本企業が中国企業との間で契約書を取り交わす場合に特に注意すべき点には、以下のようなものがあります。

 

1.契約当事者

 契約書を取り交わす際には、まず契約当事者が存在するかどうかを確認する必要があります。日本では法務局で会社の登記事項証明書を取得することができますが、中国では日本のように公的機関が証明書を発行する制度はありません。
 
 中国企業の資本金、法定代表者、経営範囲などを知るためには、会社設立時に工商行政部門から会社に対して発行される「営業許可証」の提示を求めてその内容を確認する必要があります。また、中国では、工商行政部門により「企業情報公示システム」が整備されていますので、インターネット上でも企業情報を取得することができます。

 

 2.紛争解決条項

  契約書には、当事者間の合意を明記することにより紛争を予防する役割がありますが、実際に紛争が生じてしまった場合には紛争を解決するための手段となります。そのため、契約書には紛争が生じた場合の解決手段を明記することが一般的です。
 
 紛争解決の方法として裁判所における訴訟とするか、または仲裁機関における仲裁にするかを検討することになります。訴訟と仲裁にはそれぞれメリットとデメリットがあり、どちらの紛争解決方法が適切であるかは一概に言えません。
 
 ただ、中国と日本との間には裁判所の判決に対する相互保証がないため、中国の裁判所の判決を日本で強制執行することはできませんし、日本の裁判所の判決を中国で強制執行することはできません。裁判所における訴訟を紛争解決の方法として選択する場合にはこの点に注意する必要があります。

 

3.準拠法条項

  中国企業との間で契約を取り交わす際には、当該契約に適用される法律(準拠法)を当事者間で合意しておくことが一般的です。準拠法に関する合意がなければ、最終的には紛争が持ち込まれた裁判所がその国の国際私法(日本の場合には「法の適用に関する通則法」、中国の場合には「渉外民事関係法律適用法」)に従って準拠法を判断することになりますので、いかなる国の法律にしたがって判断されるかが不明確のままとなってしまします。
 
 中国企業との取引の場合、準拠法として、①日本法、②中国法、③その他の第三国法(たとえば、シンガポール仲裁センターを仲裁機関とした場合に、準拠法をシンガポール法と指定する場合など)のいずれかが準拠法として選択されることになります。
 
 一般的には紛争解決地の法律に従うことが多いといえますが、中国では外商投資企業の合弁契約書などいくつかの契約について、準拠法を中国法とすることが定められており、中国法以外の法律を準拠法と合意することが認められない場合もあります。

 

4.言語条項

  中国企業と取引をする場合、どの言語で契約書を作成するかも重要な問題です。中国企業との取引の場合、英語、中国語、日本語での契約書の作成が考えられますが、中国語と日本語の両言語版での作成、または英語版での作成が比較的多いと思われます。
 
 ただ、両言語版を作成する場合には、翻訳の齟齬などにより条文の解釈を巡って争いが生じる可能性があることに注意する必要があります。このような争いを防ぐため、両言語版を作成する場合には翻訳の正確性を慎重に確認することが必要となります。特に日本語と中国語とでは同じ漢字であっても意味が異なる場合がありますし、日本法と中国法ではの法概念も異なりますから、これらの違いも踏まえて翻訳をする必要があります。

 

 5.まとめ

 契約書は当事者間の合意内容を記載するものですので、中国企業との間の契約書であっても、基本的には通常の契約書の作成における注意事項があてはまります。ただ、中国特有の商慣習や法概念があることを考慮する必要がありますし、紛争が生じた場合の解決方法についても日本国内の契約とは異なる部分があります。したがって、中国企業との取引の場合、このような点に注意しながら契約書を作成する必要があります。

 

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