【中国法務コラム】中国企業との契約書作成における注意点

 弁護士 神保宏充

 中国企業と取引契約を締結する場合、検討すべき点は多岐にわたりますが、中国企業との契約の締結の場合に考慮すべき一般的な注意点もいくつか存在します。日本企業が中国企業との間で契約書を取り交わす場合に特に注意すべき点には、以下のようなものがあります。

 

1.契約当事者

 契約書を取り交わす際には、まず契約当事者が存在するかどうかを確認する必要があります。日本では法務局で会社の登記事項証明書を取得することができますが、中国では日本のように公的機関が証明書を発行する制度はありません。
 
 中国企業の資本金、法定代表者、経営範囲などを知るためには、会社設立時に工商行政部門から会社に対して発行される「営業許可証」の提示を求めてその内容を確認する必要があります。また、中国では、工商行政部門により「企業情報公示システム」が整備されていますので、インターネット上でも企業情報を取得することができます。

 

 2.紛争解決条項

  契約書には、当事者間の合意を明記することにより紛争を予防する役割がありますが、実際に紛争が生じてしまった場合には紛争を解決するための手段となります。そのため、契約書には紛争が生じた場合の解決手段を明記することが一般的です。
 
 紛争解決の方法として裁判所における訴訟とするか、または仲裁機関における仲裁にするかを検討することになります。訴訟と仲裁にはそれぞれメリットとデメリットがあり、どちらの紛争解決方法が適切であるかは一概に言えません。
 
 ただ、中国と日本との間には裁判所の判決に対する相互保証がないため、中国の裁判所の判決を日本で強制執行することはできませんし、日本の裁判所の判決を中国で強制執行することはできません。裁判所における訴訟を紛争解決の方法として選択する場合にはこの点に注意する必要があります。

 

3.準拠法条項

  中国企業との間で契約を取り交わす際には、当該契約に適用される法律(準拠法)を当事者間で合意しておくことが一般的です。準拠法に関する合意がなければ、最終的には紛争が持ち込まれた裁判所がその国の国際私法(日本の場合には「法の適用に関する通則法」、中国の場合には「渉外民事関係法律適用法」)に従って準拠法を判断することになりますので、いかなる国の法律にしたがって判断されるかが不明確のままとなってしまします。
 
 中国企業との取引の場合、準拠法として、①日本法、②中国法、③その他の第三国法(たとえば、シンガポール仲裁センターを仲裁機関とした場合に、準拠法をシンガポール法と指定する場合など)のいずれかが準拠法として選択されることになります。
 
 一般的には紛争解決地の法律に従うことが多いといえますが、中国では外商投資企業の合弁契約書などいくつかの契約について、準拠法を中国法とすることが定められており、中国法以外の法律を準拠法と合意することが認められない場合もあります。

 

4.言語条項

  中国企業と取引をする場合、どの言語で契約書を作成するかも重要な問題です。中国企業との取引の場合、英語、中国語、日本語での契約書の作成が考えられますが、中国語と日本語の両言語版での作成、または英語版での作成が比較的多いと思われます。
 
 ただ、両言語版を作成する場合には、翻訳の齟齬などにより条文の解釈を巡って争いが生じる可能性があることに注意する必要があります。このような争いを防ぐため、両言語版を作成する場合には翻訳の正確性を慎重に確認することが必要となります。特に日本語と中国語とでは同じ漢字であっても意味が異なる場合がありますし、日本法と中国法ではの法概念も異なりますから、これらの違いも踏まえて翻訳をする必要があります。

 

 5.まとめ

 契約書は当事者間の合意内容を記載するものですので、中国企業との間の契約書であっても、基本的には通常の契約書の作成における注意事項があてはまります。ただ、中国特有の商慣習や法概念があることを考慮する必要がありますし、紛争が生じた場合の解決方法についても日本国内の契約とは異なる部分があります。したがって、中国企業との取引の場合、このような点に注意しながら契約書を作成する必要があります。

 

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