【中国法務コラム】中国企業との取引契約における紛争解決条項

【ご質問】 当社は中国企業との間で売買契約を締結する予定です。紛争解決条項について、中国企業は中国の裁判所による裁判を主張しています。当社としては、慣れない中国での裁判は避けたいため、日本での裁判を主張したいと考えていますが、問題はないでしょうか。

【回答】 

民事訴訟では、被告の住所地を管轄する裁判所に訴訟を提起するのが原則とされています。これは、自己の権利を実現するために訴えを提起するのであれば、相手方の住所地に赴いて訴訟を提起するのが公平であるとの考えに基づいています。

この原則の例外の一つとして、契約の当事者は、書面による合意により、どこの裁判所に訴えを提起することができるかを定めることができると考えられています。この考えによると、当事者は日本の裁判所、中国の人民法院のいずれかを管轄裁判所として合意することになります。

  • 日本の裁判所の判決は中国では執行できない

このように当事者が管轄裁判所を合意しようとする場合、日本企業にとっては日本の裁判所を合意管轄裁判所とすることが有利であるように思われます。しかし、日本の裁判所が審理し判決をしても、当該判決が外国で強制執行できるかという問題が残っています。国際契約において裁判管轄の合意をするにあたっては、この点を検討する必要があります。

たとえば、日本企業が商品の売主であり、代金の不払いがあるとして買主である中国企業を訴えた場合を考えてみましょう。当事者が売買契約で東京地裁を管轄裁判所と合意し、東京地裁で勝訴判決を得た場合、日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、この判決を中国で強制執行することはできません。なぜなら、1995年に中国の最高人民法院が日本の裁判所の判決を承認すべきではないとの判断を示しているからです。したがって、中国企業が東京地裁判決に従って代金を支払わず、日本国内に財産も有していないような場合、日本企業は代金を回収できないことになります。

このように中国企業との取引の場合、日本の裁判所を合意管轄裁判所としてしまうと、勝訴判決を得でも、強制執行ができないという事態に陥りますので、日本の裁判所を合意管轄裁判所とすることは避けなければなりません。

  • 中国の人民法院の判決も日本では執行できない

それでは、同様の事例で、管轄裁判所をたとえば上海の人民法院とした場合はどうでしょうか。この場合、日本の企業は、中国の人民法院に訴えを提起する必要があります。日本企業が勝訴判決を得ることができれば、この判決に基づいて、中国国内にある中国企業の財産に強制執行をすることができます。

しかし、この場合、中国企業が商品に瑕疵があったとして日本企業を訴えて勝訴しても、日中間には日本の「民事訴訟法」第118条第4号が定める「相互の保証」(両国間で相手国の判決を承認するとの保証があること)がないため、上海の人民法院の判決を日本で強制執行することができないという問題が生じます。

  • 紛争解決条項の定め方

このような結果となるのは公平ではないため、中国企業との取引契約では、一方の国の裁判所を合意管轄裁判所に指定するのではなく、①相互に相手方所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所としたり、②裁判によらず、仲裁により紛争を解決する旨の合意がなされることが多いようです。

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